アイコン 2011 3.16 「だしの取りかた」各曲解説

Dezille Brothersのデビューアルバム「だしの取りかた」を形成する旨味骨髄な12曲。これらをひとつずつ、椎名純平とSWING-O a.k.a 45に解説してもらいました。うまみの素はグルタミン酸、そんな具合にデジルの音楽の本質に迫ってみようではありませんか。(インタビュー:小野田雄)

01. はじめに

椎名:このアルバムは、ライヴのイメージが思い浮かぶCDにしたいというコンセプトがあったので、ライヴのイントロダクションとして必ずやっていたこの曲をアルバムの最初に持ってきたんです。
SWING-O:そこで、ロング・ヴァージョンを作って、「アルバムのアウトロダクションにもしちゃえばいいんじゃない?」ってことで、12曲目の「あとがき」も出来たんです。

02. gimme some more

椎名:僕個人的にはソウルクエリアンズ以降のプロダクションとDezille Brothersが結びついているようないないような、そんななかで、そういう音にもちゃんと目配せはしてるんだよっていう意図があります。そういうモダンなビートを本場アメリカでは編集して作るんですけど、これは一発録音で作っていて、「悪いけど、負けてないから!」っていうことでもあったりします。そして、ヴォーカルにおいては、今までやってなかったラップ表現に僕が挑戦していたり、「これからDezille Brothersのパーティが始まるよ」という決意表明でもありますね。
SWING-O:決意表明にしては、かなりクールに決めてきたなっていうね。曲順を考えている時、当初は中盤に置こうと思っていたんですけど、作者の一人でもある竹内朋康の発案で、1曲目ではじまるぜと煽っておいて、その後の変化球として2曲目に持ってきました。音的には全曲中で一番今っぽいものですし、バンドとしての新境地でもあります。

03. Eyes On Me

椎名:これは竹内くんの作風を想定しながら、SWING-Oさんが作った曲ですね。
SWING-O:この曲は、バンド加入を要請されて、まだ入るとは言ってなかったんですけど、そんななか最初に作った曲のひとつですね。こういう60年代風な曲は、過去の純平のアルバムでもやってるんですけど、ここでは音質を含め、より60年代ソウルに振り切った曲を意図しました。具体的には、スライ&ザ・ファミリーストーンの「Dance To The Music」を彷彿とさせるものでもあり……
椎名:カーティス・メイフィールドの「Superfly」を思い出させるものでもあり、そういったソウルの定型をリクリエーションしたものですよね。ホーンではSOIL & "PIMP" SESSIONSからトランペットのタブゾンビとサックスの元晴くんをフィーチャーしています。

04. やみつきスピード

椎名:この曲は当初、ロニー・リストンスミスの『Expansions』のような感じになるといいんじゃないかなと思いながら、その一方でエムトゥーメも聴いていて。微妙にかみ合わないファンクが出来ればいいなと思いつつ、バンドでしばらくやったあと、メロディを磨くために寝かした後で仕上げたものです。このバンドでそれぞれのメンバーを自由にすると、セッションすれすれのこういう美味しい部分が出るんですよね。
SWING-O:アグレッシヴなチョッパー・ベースが印象的な曲なので、ライヴでは盛り上がりそうだけど、それをレコーディングで形にするのは難しいんじゃないかと思ってました。でも、メンバーそれぞれの音色やイメージを上手くまとめることが出来て、結果、スムーズなレコーディングを経て完成しましたね。ちなみにこのスペーシーなシンセは純平が買ったばかりのシンセを使いたかったからという理由でフィーチャーされています(笑)
椎名:レコーディング2日前だったかな。ROLAND SH-2ってシンセを手に入れて、いじるのがあまりに楽しかったんで、結果として、いろんなところで活躍することになりましたね。

05. to the limit

椎名:この曲は個人的にはメアリー・ジェーン・ガールズ「ALL NIGHT LONG」とかケニー・バーク「RISING TO THE TOP」のような、80年代ソウルのキラキラ感や徒花感を出したいなと思いつつ、それだけじゃない何かを探っているうちに出来上がった曲ですね。アルバム中だと古い曲になるんですけど、レコーディングにあたって、竹内朋康が「ラップを入れたい」と言い出して、そこでまた大きく変化を遂げた曲ですね。
SWING-O:ライヴで演奏し続けていたことでセッション的なアレンジになっていたものをレコーディングにあたって、リズムをタイトにひきしめることで、80年代の音楽を知ってる人はニヤッと出来るものが仕上がったかなって思いますね。

06. アフロガール

椎名:C-C-Bや子門'zがそうだったようにシンセ・ドラムを使いながら、コスプレじゃないけど、そんな感じで半笑いでやってる80'Sディスコ・ファンクですね。
SWING-O:色んな音色を試したり、レコーディングでは一番苦労したのがこの曲でしたね。この曲はDANCE★MANさんが作曲したものなんですけど、ある程度完成したデモが送られてきた時点で、とにかく音数が多いキラキラなディスコという方向性ははっきりしていたものの、ライヴでの手応えがしっくりこないまま、レコーディングに突入したんです。だから、その後の作業ではかなりの試行錯誤をしつつ、歌詞の内容に合う下世話なバンド・サウンドが提示出来たかなと思いますね。こういうサウンドをバンドでやれるところがDezille Brothersのスゴさでもありますね。

07. shine shine shine

椎名:最近、僕のなかで歌詞を3番まで書くのが流行っていて、このアルバムの曲が全体的に長くなっているのはそのせいですね。この曲も2番までしかないんですけど、6分オーバーの大作になっています。書いたのは椎名純平&The Soul Force結成前夜なんですけど、その時期は一番しょぼくれていたので、そんな気分をぱっと晴らす曲を作りたいなと自分を奮い立たせるように作りました。当時、トゥループの「スプレッド・マイ・ウィングス」って曲がマイ・ブームだったので、ニュー・ジャック・スウィング風なデモを作ったんですけど、バンドでやるにあたってはデモに近いニュアンスで録音しました。
SWING-O:しかも、白根の好きなGO-GOのエッセンス、ニュー・ジャック・スウィングより前の時代の要素が加わったことで、80年代前半と後半が混ざり合ったような曲に仕上がっていますね。竹内朋康も「この曲はモテるよ」って言っていたんですけど、この曲はアルバムで唯一ストリングを入れたものですし、僕も女の子が一番きゅんとくる曲だと思いますね。

08. ゴキゲンナナメ

椎名:SWING-Oさんがバンド加入前、The Soul Force時代に曲作りのためのセッションで生まれたリフがもとになっていて、ザ・竹内朋康って感じの泥臭いファンク・チューンになりましたね。こういう曲をやらせたら、Dezille Brothersは無敵ですね。歌詞は最速で出来たもので、大体、3時間くらいかな。
SWING-O:この曲の歌詞は一番好きですね。この歌詞が出来たことで、Dezille Brothersという名前や方向性が産み落とされたといっていいんじゃないですか?
椎名:この曲は、女性ファンは減るかもしれないけど、父親とか旦那には是非聴いて欲しいですね。
SWING-O:でもね、何名かの女性に聴いてもらったら、「男の人って大変ね」っていう、むしろ母性本能をくすぐってるのかなっていうリアクションを得られましたけどね。この曲でもSOIL & "PIMP" SESSIONSのホーン隊が加わって、ゴキケンナナメ感はいい具合に出ているんじゃないかなって。

09. やぶれかぶれ

SWING-O:この曲はアルバムが出揃った時に、もうちょっと曲を用意しようかっていう流れのなかで僕が作った曲ですね。スティーヴィー・ワンダーの「サー・デューク」であったり、ビリー・プレストンの「ナッシング・フロム・ナッシング」であったり、そういうイメージの曲も日本語でやれば意外に格好良くなるよなって思ったんですよ。あと、コロコロ転がるようなピアノも個人的には好きでよく弾いているんですけど、そういう曲がDezille Brothersにあってもいいかなってことも念頭に置いて作りましたね。歌詞に関しては、「ゴキゲンナナメ」が相当気に入っていたので、そういうおちゃらけた路線で書いて欲しいってお願いしたんですよ。
椎名:そうですね。この曲はSWING-Oさんのイメージが明確だったので、歌詞の仕上がりも早かったですし、レコーディングもスムーズでしたよね。バンド内での評判もよくて、一時はアルバムの1曲に持ってこようっていう意見もあったくらい。

10. スキ大好き

椎名:竹内節というか、ミーターズを彷彿とさせるアーシーなファンク・チューンですね。この曲も「やぶれかぶれ」同様、一番新しく作ったものなんですけど、僕が竹ちゃんの家に行って、「どんな曲を作ろうか」と相談していたら、すぐにギターでこの曲のリフを弾き始めて、そのまま、あっという間に出来ましたね。
SWING-O:それでスタジオでアレンジを固めている最中に「どうせなら、曲中でコール&レスポンスをやろう」ってことになって、やってみたら、「格好いいじゃん!」って。その作業もまた早かったんですよ。
椎名:だから、「やぶれかぶれ」とこの曲はDezille Brothersが何も考えずに作ると、こういうものが出来るっていういい例かもしれないですね。
SWING-O:純平のジェームス・ブラウンばりのシャウトも入ってるしね。
椎名:そうですね。あとどうでもいい情報なんですけど、僕は高校の時、ジェームス・ブラウンの声真似をずっとやってたので、JBっていうあだ名を頂戴した過去があります(笑)。

11. 奇跡の庭

椎名:この曲はモータウン・ソウルを再構築したフィル・コリンズの「You Can't Hurry Love」をDezille Brothers流にやっているようなイメージですね。
SWING-O:この曲でアコースティック・ギターを使っているのは、ライヴに向けた最初のリハーサルで竹ちゃんが「これ、アコギで弾いてみようか」って言い出したことがきっかけですね。その結果、ただのモータウン・ソウルの真似を超えたものになったんじゃないかと思いますね。
椎名:なんというか、フリー・ソウル的な軽やかさ、まろやかさが出た気がしますね。
SWING-O:あと、この曲は竹内朋康に"aka ちゃぶだい"というサブネームが付けられたきっかけにもなったというか、彼はちゃぶだいをひっくり返すようなことをやりまくる男なんですね。この曲でもリズム隊を録り終えた後に「ちょっと録り直そうぜ」と彼が言い出して、現場が険悪になりかけました(笑)。まぁ、それによって、リズム・パターンも最初のものより面白いものにはなったんですけどね。

12. あとがき

SWING-O:まぁ、この「あとがき」は「はじめに」と同じくテーマみたいなものなんで、最後にもまた持ってきて、この曲で『だしの取り方』という一冊の本が終わりますっていうことですよね。
椎名:この『だしの取り方』はそれぞれの云十年の人生のだしをどうやって絞り出してきたのかっていう、そういうアルバムの締めくくりの1曲ですね。