11回目 『訂正』

 「もういっかぁーい」
 と子供達が父親にせがむ。
 公園の広場には一昨々日降り積もった雪がザラメのように粒子を粗くし、固く、うっすらと地面を覆っていた。父親はそのかつて雪だった小さな小さな氷の集合体を両手に掻き集め、力一杯頭上へと放った。氷の粒は冬晴れの澄み切った青い空にはじけ、きらきら光り、ぱらぱらと子供達の毛糸入りのジャンパーを叩く。子供達は「きゃー」とか「うきゃー」とかとかいいながら母親の方に駆け寄り「たすけてー」と、コートの裾にしがみつき、眩しそうに空を見上げて最後の細かな粒が地面に落ちるのを見届けると、今度は母親にその輝く宝石を空に放れとせがむ。父親が冷たくかじかんだ手に息を吹きかけ、二人の兄妹の頭をくしゃくしゃ撫でて「もうおしまいにしようよ」と、言ったが、当然のように子供達は「もういっかい!もういっかい!」とせがむ。父親は仕方ないなーといった様子で同じように雪を両手に集め空に放った。
 再び真昼の青空に銀色の花火が散った。ぼくは30分程前から公園のベンチに一人、黒いコートのジッパーを鼻の下まで目一杯引っ張りあげ、半分やけっぱちでビール片手に凍えながらそんな風景をぼーっと眺めていた。僕は正直言って放っとくとフツーに”引きこもり”になってしまうので、たまに思い立ったら少々頑張ってでも近くの公園に散歩に出かける。
「なにもこのクソ寒いのに何故にわざわざビールなんて」とお思いでしょうがこれが絶対に外せない僕にとっての必須アイテムなもので。もうとにかく昼だろうが夜だろうが雪が降ろうが槍が降ろうが猫が降ろうがビール、ビール、ビール、なのです。
 ビール。あぁ、なんてハッピーな飲み物。黄金色に輝いておまけに泡まで立って。なんて素敵な飲み物。”とりあえず”という言葉がこの世の中で一番似合ういかした奴。三鷹市ビール委員会、委員長の僕。(うそ)ああ、ビール。大好きだぁ・・・・。いつの間にかビールの話になってしまっていました。ごめんなさい。でもビールの話はまたいつかしよう。だって大好きなんですもの。閑話休題。とりあえず今はビールの話を忘れよう。
 
 はたと気が付くと僕のすぐ目の前で、小さい方の女の子がうつ伏せになって泣き声をあげている。さんざんはしゃいで走り回って、そして当然のように転んだのだろう。そばへ駆け寄り不思議そうな仕草で泣き顔を覗き込む男の子。母親がやってきて僕に小さく微笑みかける。そしてしゃがみ込んでその女の子の小さな頭を撫でる。それを真似て女の子に手を出そうとする男の子を父親が抱き上げる。きゃっきゃと声を上げて男の子が父親の大きな懐で暴れる。それを見て女の子も泣くのを止めて母親にだっこをせがむ。仲良く二人は両親の腕の中。
 
 今日、きっとまた新しい沢山の笑顔を手に入れた親子。帰り際に男の子が父親の肩ごしから僕にバイバイをする。ぼくは不意を突かれたためなんだかぎこちなくバイバイをした。なんだかとても嬉しかった。2月の寒空の下、真昼の公園でビールを飲むような怪しげな人間にも小さな天使達は平等に祝福を与えてくれる。
 そう、『訂正』と題名を付けたのは、「子供も悪くないじゃないか」ということを言いたかったから。何時ぞや”子供なんて欲しくない”とか此所で書いたあと母親や姉、幾人かの方から「そんなこと軽々しく言うものではありません。訂正しなさい。」と言われていたから。いつかそのタイミングをと思っていたが、やはり嘘はつけないもので、単に「あれ、うそっす」とか言えなかったのです。いま正直に「やっぱりアリでないかい?」と思えるような気がした一日でした。
 
 かしこ。
 訂正。
 草草。



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